2025.12.01
物上保証人とは?不動産担保ローンにおける役割・責任・リスクを解説

不動産担保ローンを利用する際、「物上保証人(ぶつじょうほしょうにん)」という言葉を耳にする方も多いのではないでしょうか。
ローン契約においては、債務者本人が不動産を担保にするケースが一般的ですが、中には家族や親族の所有する不動産を担保にして借入を行うケースもあります。
このとき、担保を提供する第三者が、物上保証人となります。
本記事では、物上保証人の基礎知識から連帯保証人との違い、実際に不動産担保ローンでどのような役割を果たすのか、注意すべきリスクまでを詳しく解説します。
物上保証人とは何か?基礎から分かりやすく解説
物上保証人とは、他人の借金のために自分の不動産などを担保に差し出す人のことです。
初めに、物上保証人について基礎から分かりやすく解説します。
物上保証人とは
物上保証人とは、自ら借入をしないにもかかわらず、自分の不動産などの資産を担保として提供し、他人の債務を保証する人のことです。
民法上は、保証の対象が「人」ではなく「物」である点が特徴で、第342条に基づき債権者(金融機関)は担保物から優先的に返済を受ける権利を持ちます。
よくある例として挙げられるのは、親が子の住宅ローンのために土地を担保に差し出すケースなどです。債務者(借りる人)、債権者(貸す人)との関係において、物上保証人は返済義務を負わないものの、債務者が返済できない場合は担保として提供した不動産が競売にかけられるリスクがあります。
物上保証人として認められる範囲
物上保証人には誰でもなれるわけではありません。
両親・祖父母・配偶者・子ども・兄弟姉妹など、親族や身近な家族に限られるのが一般的です。そのため、まったくの第三者が物上保証人になることはほとんどないといえます。
ただし、物上保証人の対象範囲は金融機関によって異なるため、事前確認を行いましょう。
物上保証は、資産を失う可能性のある重大な行為であるため、家族関係にあるからといって安易に引き受けるべきではないことに留意しておきましょう。
物上保証人と連帯保証人との違い
物上保証人とよく混同されがちな言葉に「連帯保証人」があります。
連帯保証人とは債務者が返済できない場合に、債務者と同じ立場で返済義務を負う人のことです。
物上保証人と連帯保証人との違いをまとめた表は以下のとおりです。
| 項目 | 物上保証人 | 連帯保証人 |
| 保証の対象 | 物(不動産など) | 債務そのもの(お金) |
| 返済義務 | なし(担保物の提供のみ) | あり(債務者と同等の責任) |
| 債務者が返済不能の場合 | 担保物が競売にかけられる | 保証人が全額を返済する義務を負う |
| 主なリスク | 担保物(自宅など)を失う | 自分の財産から返済しなければならない |
| 主な利用ケース | 親が子のローンのために不動産を担保にするなど | 親族や知人の借入を保証する場合など |
| 金融機関の審査の有無 | あり(担保の価値や所有者の確認) | あり(信用力や返済能力など) |
| 法的責任の重さ | 担保物の範囲内 | 債務全体に及ぶ |
ここでは、物上保証人と連帯保証人との法的な立場の違いや責任の重さについて、それぞれ解説します。
法的な立場の違い
物上保証人と連帯保証人の違いは、民法上でも明確に位置づけられています。
最大の違いは、「人で保証するか」「物で保証するか」という点です。
連帯保証人は、債務者と同等の返済義務を負う立場にあり、借金の全額について法的責任を負います。つまり、債務者が返済できない場合、自分の資産から返済する義務を抱えています。
一方、物上保証人は債務そのものは負担しないものの、自身が担保として提供した不動産などに限定して責任を負うのが特徴です。したがって、債務者が返済できない場合は、担保物件が競売にかけられて手放すことになります。
保証の対象が「人」か「物」か、という根本的な違いが法的立場の差に直結しています。
責任の範囲とリスクの違い
連帯保証人と物上保証人では、「どこまで責任を負うか」という点に大きな違いがあります。
連帯保証人は債務者が返済できない場合、借金全体の返済義務を負うことになり、自身の財産も差し押さえ対象となるため、生活に大きな影響を及ぼします。
一方、物上保証人は借金の返済義務は負わず、提供した不動産などの担保に限定して責任を負う立場です。
物上保証は親が子の事業資金のために自宅を担保に提供するなど、主に家族間で用いられるケースが多く見受けられます。責任の範囲が限定されているとはいえ、担保物件を失うリスクがあるため、物上保証をする際は慎重な判断が求められます。
連帯保証人のほうが責任は重い
連帯保証人の立場は、非常に責任が重いのが特徴です。
債務者がたとえ一度でも返済を滞納すると、債権者(銀行など)はすぐ連帯保証人本人に全額の返済を求めてくる可能性があります。
しかも、連帯保証人には「自分より債務者の財産を先に差し押さえる」といった交渉をする権利(抗弁権)がありません。債務者と同じ立場で、残りの借金すべてを返す義務を負ってしまうのです。
自分が借りたお金でなくても、場合によっては自宅や貯金などの財産を失うリスクがあり、人生設計に大きな影響を及ぼすこともあります。
そのため、頼まれたからといって安易に引き受けるのは避けるべきです。連帯保証人になる際は、責任の重さをしっかり理解し、十分に検討したうえで判断することが大切です。
どんなに親しい関係であっても「絶対に大丈夫」という保証はありません。慎重な姿勢を忘れないようにしましょう。
不動産担保ローンで物上保証人が必要なケース
不動産担保ローンでは借入者本人だけでなく、家族や親族が物上保証人として不動産を提供するケースがあります。
ここでは、不動産担保ローンで物上保証人が必要なケースについて解説します。
事業資金の調達
不動産担保ローンで物上保証人が必要なケースの一つが、法人経営者や個人事業主による事業資金の調達です。例えば、法人が運転資金や設備投資のために融資を受けたい場合、法人自身が十分な不動産を所有していなければ、銀行は担保不足と判断することがあります。
そこで利用するのが、社長個人の自宅や所有している不動産です。
社長は会社とは別の立場でありながら、自身の不動産を担保として提供することで、法人の借入を支援します。
このときに経営者個人が物上保証人として担保を差し入れます。
銀行はリスクを下げるために、信用力のある個人の資産に担保を設定することを求める場合があります。
親族が家族の借入を支援する
不動産担保ローンにおいて、親族、特に親が物上保証人となるケースは珍しいことではありません。
典型的なのは子どもが新しく事業を立ち上げるときや、マイホームを購入するときです。子どもの収入や信用だけでは、銀行が求める融資条件を満たせない場合に検討されるケースがあります。
そんなとき、親はなんとか力になりたいという思いから、自宅や所有する不動産を担保として提供し、子どもの借入を支えることがあります。
このとき、実際にお金を借りるのは子ども(債務者)ですが、親が「物上保証人」として不動産を担保に入れます。
親は返済義務こそ負いませんが、万が一、子どもが事業に失敗したり、ローンを滞納した場合は、その不動産は競売にかけられ手放すことになります。
家族から頼まれて物上保証人を引き受けることは珍しくありませんが、その一方で大きなリスクも伴います。
物上保証人になる際には、感情だけで判断するのではなく、将来の生活への影響も含めてリスクを理解し、ご家族ともよく話し合ったうえで慎重に決めることが大切です。
物上保証人のリスクと注意点

物上保証人には返済義務はないものの、提供した不動産を失う重大なリスクがあります。
ここでは、物上保証人のリスクと注意点について解説します。
最大のリスクは担保不動産を失うこと
物上保証人にとって最大のリスクは、担保として提供した不動産を失う可能性があることです。
物上保証人自身は借金をしたわけではないため、金銭的な返済義務はありません。
しかし、債務者が返済不能になった場合、担保に入れた不動産は競売や任意売却の対象となり、手放すことになります。特にその不動産が自宅であった場合、生活の拠点を失う事態にもつながりかねません。
家族のため、親族のためという善意で担保を提供したとしても、その結果として大きな犠牲を払うリスクがあることを十分に理解し、慎重に判断する必要があります。
気軽な気持ちで保証してしまうケースに注意
物上保証人になる際に、家族や親族だから大丈夫だろうといった軽い気持ちで承諾してしまうのは危険です。特に「名義だけ貸す」という感覚で不動産を担保に提供すると、後に取り返しのつかない事態になることもあります。
物上保証人になるには、抵当権設定契約書などの正式な契約書に署名・押印が必要であり、その時点で法的な効力が発生します。一度契約すれば、不動産が競売される可能性も含めて、重い責任を負うことになります。
契約内容を十分に理解せずに署名してしまうことのリスクを認識し、家族間であっても慎重に判断することが大切です。
物上保証人が亡くなった場合、物上保証人の地位も相続される
物上保証人が亡くなると、その人が所有していた抵当権付きの不動産は相続人に引き継がれ、同時に物上保証人としての地位も相続されます。
つまり、相続した不動産が担保に入っている場合、債務者が返済不能になれば、相続人がその不動産を失うリスクを負うことになります。
物上保証人の地位を引き継ぎたくない場合は相続放棄が可能ですが、その場合はほかの財産もすべて放棄しなければなりません。相続する際は慎重に判断しましょう。
トラブル防止のための確認ポイント
物上保証人になる前には、契約内容や債務者の返済計画をしっかり確認することが必要です。
ここでは、トラブル防止のための確認ポイントについて解説します。
契約内容をしっかり理解する
物上保証人になる前には契約書の内容を正確に理解しておきましょう。
抵当権設定契約書や金銭消費貸借契約書など、署名・押印を求められる書類には、債務の金額、金利、返済期間、保証範囲といった重要な条件が明記されています。
これらの内容をきちんと確認せずに署名してしまうと、想定外のリスクを負うことにもなりかねません。
もし少しでも疑問点や不明点があれば、金融機関の担当者に必ず質問し、納得してから署名することが原則です。「よく分からないけど家族のために…」という姿勢は危険であり、トラブル防止のためにも冷静な判断が必要です。
債務者の返済計画を把握する
物上保証人になる前には、相手の返済能力をしっかりチェックすることが資産を守るために欠かせません。
債務者が何に使うためにいくらのお金を借りるのかを、あいまいなままにせず、正確に把握します。
また、債務者の収入や現在の借金、具体的な返済スケジュールが書かれた書類を必ず見せてもらい、返済の見通しが現実的かどうかを冷静に判断してください。
もし返済が難しくなった場合、どう対処するのか、自身が提供した不動産にどのような影響が出るのか(競売になるリスクなど)を、契約前に率直に話し合うことも必要です。
家族など親しい間柄であっても、感情ではなく客観的な事実に基づいて判断し、万が一のリスクを想定して準備しておくことがトラブル防止につながります。
物上保証人になる流れ(不動産担保ローンの場合)

不動産担保ローンで物上保証人になる手続きの流れは以下のとおりです。
1. 担保提供への同意
2. 金融機関の確認
3. 融資の申込と審査
4. ローン契約の締結、融資実行
5. 抵当権の登記
それぞれのステップについて解説します。
1. 担保提供への同意
家族や親族が借り入れをする際に、自分名義の不動産を担保として差し出す場合は、所有者本人の同意が必要です。担保を提供する前に、物上保証の仕組みや、それに伴うリスクについて十分に理解しておくようにします。
感情や雰囲気に流されて安易に承諾するのではなく、将来的に生じるかもしれない責任まできちんと考えた上で慎重に判断しましょう。
2. 金融機関の確認
債務者は不動産を担保として受け入れてくれるかどうか、借入先となる金融機関に確認します。名義人との関係や不動産の種類によって対応が異なるため、事前に詳細を把握しておくことが必要です。
金利や必要書類についても確認しておきます。
3. 融資の申込と審査
仮審査の後に本審査が行われます。
本審査では収入証明や印鑑証明書、登記事項証明書(登記簿謄本)、戸籍謄本などの提出が必要です。(金融機関により異なる)
名義人と債務者の関係性もこの段階で確認されます。
書類がそろっていないと時間がかかるため、早めに準備しておくと安心です。
4. ローン契約の締結、融資実行
審査に通過した後、借入をする人は金銭消費貸借契約を結び、不動産を提供する名義人は抵当権設定契約書に署名・押印します。
契約前には物上保証人としての意思確認が改めて行われ、契約後は法的な責任が発生します。
契約完了後、融資が実行されます。
5. 抵当権の登記
法務局で抵当権の設定登記が行われます。
これにより、金融機関が担保とした不動産に対して正式な権利を持つことになります。
登記手続きは、金融機関が依頼した司法書士が代行するのが一般的です。
まとめ
物上保証人は債務者本人ではありませんが、提供した担保の範囲で大きな責任を負う立場にあります。
安易に引き受けてしまうと、万が一、債務者が返済できない場合は自宅などの大切な資産を失うリスクも否定できません。一方、家族や事業を支える手段として、正しく理解し活用すれば大きな力にもなります。
ただし、自分の借入ではないのに所有する不動産を担保にするということは、家族や事業のためとはいえ重い決断です。
手続きを進める前には契約内容やリスクをよく理解し、不安な点は納得いくまで確認しておきましょう。
岡村商事では専門スタッフが無料でご相談を承り、物上保証人の役割やリスクを丁寧に説明し、安心してご契約いただけるようサポート体制を整えています。
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